あなたは、あのときのことを、覚えていますか?
あの日、あなたのおかあさんは命がけであなたを生みました。
どんなに苦しくても負けないで、あなたを生みました。
もちろん、あなたもがんばりました。
がんばってがんばって、命がけで生まれてきて「こんにちはー!」って、せいいっぱいの声で泣きました。
それはまだ言葉を話せないあなたの、生まれてきたことを心から喜ぶ声でしたね。
あなたの声を聞いて、おかあさんも泣きました。うれしくってうれしくって泣きました。
こんにちは。わたしのあかちゃん。
わたしのところにきてくれてありがとう。
わたしの子どもになってくれてありがとう。
あなたを抱きしめながら、おかあさんは、この世のすべてに感謝しました。あなたに会わせてもらえたことを、心から感謝しました。
そして祈りました。
どうかこの子がしあわせでありますように。これから先、わたしにしあわせをくださることがあるとしたら、わたしより先にこの子に授けてくださいますようにと祈りました。あなたがしあわせになること。それがおかあさんの喜びでしたから。
もし、この子にこの先やってくる悲しみや苦しみがあるのなら、この子ではなくわたしに全部よこしてくださいますようにとお願いしました。あなたが苦しむこと、それはおかあさんには耐えられない悲しみでしたから。もちろん、いまだってそう思っています。あなたが、どんなに大きくなっても、そう思っていますから。
この先、あなたがどんなふうになっても、そう、どんなにわるい子になっても、どんなにだめな子になっても、おかあさんはあなたのことをけっしてあきらめません。
おかあさんにとって、
あなたはいつだってわるい子じゃないし、だめな子でもありません。
いつまでたっても、あなたはおかあさんの子ども。
大きくなっても、おかあさんの子ども。
あなたはおかあさんのおなかの中にいたかわいい子。
おかあさんが命がけで守ることを誓ったたいせつな命。
あなたのおかあさんは、あなたのおかあさんになったというだけでしあわせなのです。あとのいいこと、みんなオマケかも。
生まれてきてくれて ありがとう。
ここにいてくれて ありがとう。
おかあさんは、いつもそう思っています。
だから、どうかしあわせになってくださいね。
<文>藤田市男
エッセイスト。新潟市江南区生まれ。
娘5歳・息子1歳のときに青年実業家を目指して独立し、しばらく中年実業家。…気付けばエッセイスト。
著書:【手づくり絵本:ちいさな手】うに企画/【家族っていいなぁ】パート1~3などあたたかなエッセイにファン多数です☆
<絵>藤井 正子
トキっ子ラウンジvol.32(2014年3月10日発行)掲載